徹底解説|産休とは?取得要件・育休との違い~出産手当金・一時金・社保免除・母性健康管理措置まで完全解説!

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この記事では、産休制度に関わる全ての項目について、ポイントを踏まえながら分かりやすく解説しています。

なお、この記事は産休に関連する全ての情報を網羅しておりますので、目次を活用しながら辞書替わりにお役立ていただくことをおすすめ致します。

<この記事はこんな方におすすめです>

✅産休関連の制度内容について知っておきたい会社経営者の方

✅初めて産休手続きをする担当者の方

✅これから産休取得予定の社員の方

✅産休に関する制度内容について、おさらいしたい方

✅産休関連の制度内容について最新情報を知りたい方

はじめに

令和4年4月1日より、企業規模の大小を問わず、本人又は妻の妊娠・出産を申出した労働者の方に対して、育休取得の意向確認、個別周知を行うことが義務化されました。

この定めは、あくまでも育休制度についてのものではありますが、産休の取得を希望する労働者の方から申出があれば、当然、産休に関する制度内容についても同時に説明しなければならないものであるといえます。

よって、会社手続き担当者の方は育休に関する制度のみならず、産休関連の制度についても、社員の方へ誤った説明をしてしまわないよう、事前にしっかり理解しておく必要があります。

また、産休の取得を希望する労働者の方から申出があったのであれば、それは妊娠中である労働者の方から申出を受けたということになりますので、産休制度の把握のみならず、妊産婦である労働者の方へ対する母性健康管理措置義務についても併せて理解しておかなければならないということにもなります。

この記事では、産休制度に関連した上記全ての情報を完全に網羅しつつも、初心者でも理解できるよう、できるだけ分かりやすく解説を行っております。

なお、この記事のボリュームはかなりの分量となっており、全て読むには大変な労力を要してしまいます。

読者の方々におかれましては、ぜひともこの記事をブックマークしておいていただき、目次を活用しながら辞書替わりにお役立ていただくことをおすすめ致します。

【育児休業制度についてもお調べになりたい方】

【まず産休・育休制度の全体像を効率的に把握したい方】

産休・育休に関する各制度や手続きが、それぞれどの法律に準拠しているかを最初に理解しておくと、後々、よりスムーズに手続きを進めていくことができます。

以下の記事について、目次の表題部分だけでも通読しておくと効率的に産休・育休制度の全体像を把握することができます。
ぜひご活用下さい。

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産休制度は労働基準法に定められている

産休(産前産後休業)とは、女性労働者のみが取得できる制度で、労働基準法第65条に定めがあります。

妊娠中の母性保護を目的に定められた休業制度ですので、男性労働者は取得できません。

産休制度と育休制度は別々の制度

次に、「産休制度」と「育休制度」の違いについて確認していきます。

まずは・・・

「産休制度」と「育休制度」は異なる法律に基づく別制度であり、その目的とするところも異なっている

ということを理解しておきましょう。

ここでは、両制度を比較しやすいよう、ポイントのみ記載しておきます。

【根拠法】

産休:労働基準法
育休:育児介護休業法

【目的】

産休:母性保護
育休:育児と仕事の両立支援

【対象者】

産休:妊産婦である女性労働者のみ
育休:養育する子の母親・父親・里親(里親は特別養子縁組した場合のみ)

【除外対象者】

産休:なし(妊産婦である全労働者が対象)
育休:退職予定者や勤続1年未満の社員等(労使協定で除外可)

【開始日】

産休:出産予定日6週前(*)から出産日の間で本人が希望する日

(*)双子以上妊娠の場合は14週前

育休:以下のとおりの日

(母親)産休終了日の翌日以後
(父親)出産予定日の当日以後
(里親)特別養子縁組の正式委託日以後

【終了日】

産休:出産日の翌日から8週間後(この間原則就労不可*)

(*)本人の希望+医師の許可がある場合のみ6週間後から職場復帰可

育休:子の1歳誕生日前日(最長2歳まで延長可)

【申出期限】

産休:なし
育休:原則1カ月前までに申出する必要あり(*)

(*)一定の事情あれば2週間前まで可

【分割取得】

産休:連続休業の義務なし(産後期間は原則就労禁止)
育休:2回に分割可能

【延長制度】

産休:なし
育休:保育入園不可の場合等、半年ごと最長2歳まで

以上から・・・

産休は、母性保護を目的としており、妊産婦である女性労働者のみが、出産の前後に取得できる制度であること。

育休は、育児と仕事の両立支援を目的としており、男女を問わず、子が出生した後に、生まれた子の養育をするために取得できる制度であること。

と、大きな違いが分かるかと思います。

産休・育休手続き初心者の方は、この際に両制度のポイントをしっかりと理解しておきましょう。

それでは、続きまして「男性版産休」について見ていきましょう。

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従業員の育休取得を推進する中小企業に対しては、非常に手厚い助成金制度が設けられています!

育休関連の助成金制度について知りたい方は、以下のサイトもご参照下さい。
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アドバイザー業務の内容は、主に・・・

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  5. 次世代法及び女性法(*)による年度毎の情報公表等支援
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(*)次世代育成支援対策推進法・女性活躍推進法

等となります。

年間休業取得者数の見通し等に基づき、完全カスタマイズで契約形態・利用料金等をご相談いただけます。(サポートはオンライン対応のみとなります)

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男性版産休は、産休ではなく新設の育休制度

「男性版の産休制度が始まった」との情報を耳にしたことはありませんでしょうか?

「男性労働者も産休を取得できるようになった?」と思われた方もいるかと思います・・・

しかしながらこの制度は、育児介護休業法に新たに定められた、出生時育児休業(別名、産後パパ育休)制度のことを指しています。

つまり、労働基準法で定める産休制度とは別物であり、育児介護休業法で定める育休の兄弟関係にあたる制度ということになります。

それでは、この制度は一体どのようなものなのでしょうか?

ここではポイントを5つリストアップしておきます。

男性版産休〔産後パパ育休〕5つのポイント

  1. 従前からある育休制度とは別枠で利用できる。
  2. 妻の産後8週間のみを対象とした休業制度である。
  3. 産後8週間以内において合計4週間まで、2回に分割して取得できる。
  4. 労使協定を締結すれば、休業期間中であっても、一定条件のもと就業することができる。
  5. 申出期限が2週間前までに短縮されている。(通常の育休は1カ月前まで)

この制度が新設された目的は、夫である労働者が、出産直後の子育てをサポートしやすくすることにあります。

妻の出産後8週間(=産後休業期間)限定で、その夫が取得できる制度のため、「男性版産休」の呼称がつけられているというわけです。

なお、この制度について知りたい方は、以下の記事をご参照下さい。

産休期間は最長で産前約6週間、産後は8週

産休期間は、産前休業期間と産後休業期間に分かれます。

産前休業は出産予定日6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から請求でき、産後休業は出産日の翌日から8週間となります。

産前休業は「出産予定日」から・・・

産後休業は「実際の出産日」の翌日から・・・

カウントするのがポイントです。

よって、当初の出産予定日と実際の出産日にズレが生じた場合、それに応じて産前休業期間は長くなったり短くなったりすることとなります。

一方、産後休業期間については、「実際の出産日」の翌日からカウントしますので、常に8週間となります。

産前休業は出産予定日6週間前から請求可能

産前休業は、出産予定日の6週間〔42日〕前(*)から請求可能となっていますが、

ここでのポイントは・・・

必ず6週間〔42日〕前(*)から取得するものではない

ということです。

あくまでも産前休業の開始日は、妊娠中の労働者本人からの請求に基づきます。

(*)多胎妊娠の場合は14週間〔98日〕前

出産日当日は、産前?産後?

ちなみに、出産日当日は産前、産後のどちらに含まれるのでしょうか?

答えは・・・

出産日当日=産前期間

です。

よって、極端な例としては、労働者本人から休業請求がなければ、出産日の当日まで就業させてもよいこととなります。

多胎妊娠の場合は、出産予定日14週間前から

双子以上を妊娠した場合(=多胎妊娠)の場合は・・・

出産予定日14週間〔98日〕前から産前休業の請求が可能です。

産後8週間は原則、働かせてはならない

産休入り後に、従業員の方の希望に応じて出勤させてもよいのは、あくまでも産前休業期間中の話となります。

産後休業期間である8週間〔56日〕については、就労が禁止されています。

ただし、以下の3点を全て満たす場合については就労させてもよいこととなっています。

  1. 休業中の従業員本人が出勤を請求している
  2. 出産日翌日から起算し6週間〔42日〕を経過している
  3. 医師が支障なしと認めた業務への就労である

流産・人工妊娠中絶の場合は?

それでは、流産・人工妊娠中絶の場合はどうなるでしょうか?

労働基準法では、「出産」について以下のように定めています。

  • 妊娠85日以後の出産(早産を含む)
  • 妊娠85日以後の死産(流産)
  • 妊娠85日以後の人工妊娠中絶

上記に該当した日は全て出産日とみなします。

流産してしまった場合も、人工妊娠中絶が行われた場合も、妊娠85日以後のものならば、その翌日から数えて8週間は産後休業期間となります。

よって、原則就業禁止となります。

なお、出産予定日、育休開始(予定)日から取得可能な産休・育休期間を知りたい場合は以下の自動計算サイトを活用すると便利です。

リンクを貼らせていただきます。

産休制度は全事業主に義務付けられている

女性従業員から「産休を取りたい」と申出を受けた事業主は、申出を断ることはできません。

このルールは企業規模の大小を問わず、従業員1名だけの会社にも適用されます。

株式会社といった法人だけではなく、個人事業であっても、従業員を雇用していれば適用対象となります。

たとえ、家族経営の個人事業であっても、事業主と一体である家族以外の従業員から申出があれば適用対象となります。

産休は全ての労働者に与えなければならない

さて、以下の条件に該当する女性労働者から産休取得の請求があったら、どうしますか?

  • 入社してから日が浅い
  • アルバイトで勤務日数、時間数が少ない
  • 退職予定である
  • 日雇い労働者である

答えはどの労働者から請求があった場合も出産予定日6週前以後に請求があれば、出産日の翌日から8週間まで産休を取得させなければなりません。

事業主としては、納得のいかない部分があるかもしれませんが、なぜこのようなルールなのでしょうか?

それは、前半で解説したとおり、産休制度は労働基準法上において・・・

母性保護を目的に定められた制度

であるからです。

よって、就業形態や退職予定の有無に関係なく、要件に該当する女性労働者であれば、その全ての請求を断ってはならないルールとなっています。

「入社してから何年経てば産休を取得できますか?」という質問をよく耳にします・・・

が、極端な話、入社直後に妊娠が分かり、その本人が退職せずに産休の取得を希望するのであれば、やはり取得させなければなりません。

このあたりは、後の章で解説している、男女雇用機会均等法に定められた、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いの禁止にも該当します。

つまり、労働者として働く妊産婦の方々にとって、産休をとるための資格要件は存在しないということになります。

会社役員は産休制度を利用できる?

それでは、女性会社役員の方から産休取得の請求を受けた場合はどうなるでしょうか?

答えは・・・

就業規則等「会社独自の取決めに従う」

こととなります。

少し回りくどい言い回しになりましたが、つまるところ、労働基準法に定められた産休制度は適用されないということです。

理由は簡単で、会社役員には産休制度の根拠法である、労働基準法が適用されないからです。

使用人兼務役員は産休制度の対象となる

ただし、例外として使用人兼務役員は、使用人である部分について労働基準法が適用されますので、産休制度の利用対象となります。

よって、一般従業員と同じ条件で、産休制度を利用することができます。

会社役員でも一時金、手当金は受給できる

少し脱線しますが・・・

労働基準法が適用されない会社役員であっても、妊娠・出産のために休業した場合、その期間中の収入を補填するものとしての出産手当金や、出産費用についての補助である出産育児一時金については受給することができます。

つまり、会社役員については産休制度の利用が法的には保証されていませんが、会社独自の取決めを背景とした「妊娠・出産のための休業」をした場合には、出産手当金が受給でき、出産育児一時金も受給できるということです。

ただし、この説明は勤務先を通じて健康保険に加入している場合に限ります。

なお、出産手当金、出産育児一時金については、後ほど詳しく解説いたします。

妊娠・出産を理由とした解雇は禁止されている

以下のとおり、妊娠・出産に関しては、解雇規制がありますので、しっかりと確認しておきましょう。

産休期間中および産休終了日後30日間は解雇してはなりません(労働基準法)

妊娠・出産を理由とした解雇をしてはなりません(男女雇用機会均等法)

産休期間中の給与はどうなる?

さて、それでは、産休期間中の給与支払いについてはどうすべきかについてみていきましょう。

結論から言いますと、産休期間中の給与は無給扱いとする会社がほとんどです。

理由は、以下のとおりです。

給与を払うと、手当金が減額される仕組みがある

産休期間中は、休業する従業員の方が健康保険に加入している場合、出産手当金が支給されます。

ただし、支給対象となる休業期間中に給与が支払われた場合、その金額に応じて、手当金が無支給もしくは減額支給となる支給調整の仕組みがあります。

また、事業主側に、そもそも産休期間中の給与支払い義務はありません。(ただし、就業規則等に給与を支払う旨定めている場合は除きます)

せっかく、休業期間中の給与を支払っても、支給調整されてしまうばかりか、そもそも給与支払い義務自体がありませんので、無給とする会社が大半を占めているというわけです。

なお、出産手当金の支給調整については後ほど詳しく解説します。

出産手当金について

出産手当金を一言で表しますと・・・

  • 産前産後休業期間中の収入を支えるものとして
  • 健康保険法に基づき
  • 産休前給与の2/3程度を受給することができる

制度となります。

ちなみに、出産手当金は「土日祝日」など、会社が個別に定める「所定休日分」も含めて支給されます。

出産手当金を受給できない労働者もいる

先ほども解説しましたとおり、産休期間中は無給扱いとしている会社が一般的です。

これを補完するものとして、健康保険へ申請を行うことにより、出産手当金が支給される訳ですが・・・

産休は取得できても、出産手当金の支給対象とならない労働者がいる

ことに注意しておかなければなりません。

どういうことなのか、詳しく見ていきましょう。

産休期間中には出産手当金が支給されるという話をしました。

しかし、これは、あくまでも健康保険法で定める・・・

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)
  • 健康保険組合

に加入している労働者に対しての話です。(一部の日雇い労働者は除きます)

産休は、労働基準法により母性保護を目的として定められているため、取得を希望する全ての労働者に与えなければならないことになっています。

一方、出産手当金は、健康保険法に定められた別制度の位置づけです。

よって、産休の取得対象者なのですが、出産手当金はもらえない労働者がいることとなります。

【出産手当金を受給できない労働者】

  • 配偶者など親族の加入する健康保険の扶養家族(=被扶養者)となっている労働者の方
  • 自分で国民健康保険に加入している労働者の方(一部の同業者団体で組織する国民健康保険組合加入者は除く)
  • 健康保険に加入する日雇い労働者の内、出産月の前4カ月間において26日分以上、保険料を納付していない労働者の方

上記の人々には、原則、出産手当金の支給が行われません。

よって・・・

  • パートやアルバイト等、短時間で働いている方
  • 飲食・理美容業など、健康保険への加入が強制となっていない個人事業主の元で働いている方
  • 日雇い勤務で働いている方

については、健康保険へ加入しているか否かの再チェックを最初にしておく必要があります。

ただし、例外として、同種同業の組合員で組織された国民健康保険組合等に加入している労働者の一部には、組合独自の定めで、出産手当金が支給される場合があります。

よって、国民健康保険に加入している社員に対しては、加入先の国保から出産手当金が支給されるのか否か、念のため事前確認しておくよう伝えておいたほうがよいでしょう。

支給されるタイミング

次に支給されるタイミングについてですが・・・

一般的には・・・

産後の休業期間が終了してから1か月くらい後の支給になることがある

と理解しておいて下さい。

ちなみに、申請が通った後の支給方法は、

本人が届出した指定銀行口座への一括振込入金

となります。

産前および産後の休業期間中に複数回に渡り申請を行えば支給を早めることができますが、事務手続きが煩雑になりますので、休業する社員の方から特別に要望がある場合のみ対応している事業者が多いのが現状です。

なお、支給を早めるために手続きした場合であっても、休業日から1カ月くらい後の支給になると考えておいたほうが無難です。

この支給時期について・・・

出産により休業予定の社員の方には、当面の収入のこともありますので、早めに伝えておいてあげたいところです。

では、なぜ、遅くなってしまうのでしょうか?

理由は、「支給されるまでに」というよりも「申請できるようになるまでに」時間がかかることにあります。

時間がかかるポイントとしては以下の点が挙げられます。

申請時点で、実際に休業した日が確定していなければならず、休業予定の段階では申請できないこと

休業取得日が属する賃金締切り期間が過ぎてからでないと、勤務先による「休業した日に対する賃金支払い有無の証明がスムーズに行なえない場合があること(*)

(*)
全国健康保険協会の場合、従前は、賃金締切り期間を経過してからでないと出産手当金の申請自体ができないルールになっていましたが、令和5年1月以降の申請書様式簡素化にともない、支給対象日を経過していれば申請できるよう要件も緩和されました。

出産手当金の申請方法

それでは、出産手当金の具体的な申請方法について見ていきましょう。

【申請先】

出産手当金を受給するためには、「出産手当金支給申請書」を会社を管轄する全国健康保険協会(協会けんぽ)支部あてに申請します。

健康保険組合加入企業の場合は加入先の健保組合へ申請します。

なお、国民健康保険組合から支給を受けられる場合は、本人が直接加入先の国保組合との間で手続きすることとなります。

【支給申請を行うタイミング】

先ほども解説しましたが、出産手当金の申請は・・・

申請時点で、実際に休業した日が確定していなければなりません

よって、出産手当金の申請手続は、産休終了後に行われるのが一般的となります。

出産証明の受入


この申請を行うためには、まず「出産手当金支給申請書」の所定欄に・・・

出産したことの証明

を受入する必要があります。

この証明は、休業者本人が、出産先医療機関の担当医師・助産師に記入を依頼します。

【休業前後の給与支払い状況の確認】


出産証明受入後は、勤務先の会社から申請を行うのが一般的です。

会社は、本人から提出された申請書の所定欄に・・・

休業前後の給与支払い状況を記載・証明

し、全国健康保険協会支部(あるいは健康保険組合)へ申請を行います。

急ぎで申請する場合の留意点


申請を急ぎたい場合は、産休が終了する前であっても申請を行うことができますが、申請日より前の休業期間のみが支給申請の対象となります。

なお、出産前に申請を行う場合は、

申請書の出産証明欄については、出産予定日と胎児数について証明を受入れすればよい

こととなっています。

また・・・

申請対象となる休業期間についての勤務先による賃金支払状況証明も必要

となります。

なお、残りの休業期間分の手当金申請については、2回目以降の申請として、改めて手続きを行う必要があります。

この場合、

出産後の申請分については、改めて出産証明を受入する必要があります。

なお、出産証明は1度受入済であれば、それ以後に申請する際の再受入は不要となります。

複数の申請を繰り返すと事務負担が大きくなりますので、不要不急の場合でなければ、なるべく産休終了後1回にまとめて申請することをお勧めします

支給期間について

それでは続いて、支給期間について解説します。

【産休期間は最長で産前約6週間、産後は8週間

まずは、労働基準法の産前産後休業期間から見ていきましょう。

産休期間は、産前休業期間と産後休業期間に分かれます。

産前休業は、出産予定日の6週(多胎妊娠14週)間前から請求可能となっていますが、必ず6週(14週)間前から取得するものではなく、妊娠中の労働者本人からの請求に基づき開始します。

対して、産後休業は出産日の翌日から8週間となっており、原則、就労禁止です。
ただし、以下の要件を満たす場合のみ就労することが可能です。

  • 産後6週間が経過していること
  • 本人が就労を希望していること
  • 医師が認める業務への就労であることの証明があること

次に、産前休業・産後休業日数を数える際の起算日についてです。

産前休業は「出産予定日」から・・・

産後休業は「実際の出産日」の翌日から・・・

カウントするのがポイントです。

つまり、出産日当日=産前期間となりますので、労働者本人から請求がなければ、ルール上は出産日当日の就労も可能ということです。

労基法と健康保険法では産前休業期間の考え方が若干異なる

当初の出産予定日と実際の出産日にズレが生じた場合、労働基準法の産前休業期間は長くなったり短くなったりします。

それに応じて、通例は、出産手当金の支給日数も多くなったり少なくなったりします。

つまり、労働基準法も健康保険法も基本的な産前産後休業期間の考え方は同じです。

ただし、予定日より前に出産となるケースについてのみ、健康保険法独自の取り決めが適用されるケースがあります。

どのようなことなのか、詳しく見ていきましょう。

健康保険法では・・・

産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

を産休期間としています。

ここでの大きなポイントは、産休期間を出産予定日からではなく、実際の出産日から起算している点です。
(ただし、予定日より遅く出産した場合は、出産予定日から起算する決まりになっています)

労働基準法の産休期間は、出産予定日から起算していますので、予定より早く出産すると短くなります。

いっぽう、健康保険法で定める産休期間は、実際の出産日から起算しますので短くなるとは限りません。

何を言いたいかというと・・・

予定日より早まった日数分を当初の産休開始日から繰上げて、再判定した中に・・・

「妊娠・出産のため労務に服さなかった」日があれば、その日も産休期間≒出産手当金の支給対象に含めることができる

ということです。

例えば、当初産休開始日の直前に、所定休日、欠勤日をくっつけているような場合がこれにあたります。

ちなみに、これらの日が当初産休開始日と連続していなければならないルールはありません。

ただし・・・

「妊娠・出産のため労務に服さなかった日」でなければ、産休期間に含めることはできません。


それでは、上記のケースで、当初産休開始日の直前に年次有給休暇を取得していた場合はどうなるでしょうか?

年次有給休暇を取得している日についても産休期間に含めることはできます。

ただし、年次有給休暇の取得日については通常の出勤日と同等の賃金が支給されますので、冒頭で解説したとおり、出産手当金の支給対象とならない場合がほとんどです。


次に、予定日よりも遅く出産した場合について解説します。

この場合は・・・

当初産休開始日を繰り下げる必要はなく、従前どおり出産予定日から起算して産前休業期間を数える

こととなっています。

予定より早く出産した場合のように、産前休業期間の再判定を行う必要は生じません。

つまり、予定より遅れた分、産前休業期間は長くなり、その分、出産手当金の支給対象日数も多くなるということです。

ちなみに、この考え方は、産休期間中の社会保険料免除を決定する際にも同じく適用されます。

支給額について

さて、ここからは、支給額について解説していきます。

まず、

出産手当金は日額ベースで支給される

ということを踏まえておきましょう。

支給日額×支給日数=支給総額が、後日、届出した預金口座へ一括振込されるイメージです。

それでは、具体的な日額計算方法について見ていきます。

なお、以下で解説する計算方法は、全国健康保険協会(協会けんぽ)加入企業の場合のものとなります。

健康保険組合加入企業の場合は、加入先組合の定めにしたがって下さい。

なお、どの健保組合も、協会けんぽと概ね同様の計算方法としているようですが、各組合で独自の制度運営をしているケースがあるかもしれませんのでご注意下さい。

協会けんぽの場合、出産手当金の支給日額は・・・

支給開始日以前における、連続した12カ月間の各月の標準報酬月額平均額÷30日分×2/3

となります。

なお、端数計算については・・・

÷30日した後の端数は →10円未満四捨五入

×2/3 した後の端数は →  円未満四捨五入

とします。

ここでのポイントは、標準報酬月額が計算のベースとなっている点です。

実際に支給された給与額をベースにするわけではありませんのでご注意下さい。

また、支給開始日以前の連続した12か月間に、標準報酬月額が改定されている場合は、12か月の平均額を計算のベースとする点にも注意が必要です。

標準報酬月額の仕組みについて知りたい方は、以下、協会けんぽのホームページをご参照下さい。
リンクを貼らせていただきます。

なお、健康保険組合(組合けんぽ)では、出産手当金の付加給付(増額支給)を行っている場合があります。

各組合ごとに独自の取り決めをしていますので、加入先が健保組合の場合は、必ず付加給付の有無についても確認しておきましょう。(全国健康保険協会〔協会けんぽ〕には、付加給付の制度はありません)

多胎出産の場合は支給日数が多くなる

ちなみに、産前産後休業期間中に健康保険から支給される出産手当金は、双子以上の出産であっても手当金の日額が増額されることはなく、子1人を出産した場合の日額と同額となります。

ただし、子1人を妊娠した場合の産前休業期間は42日間であるのに対し、双子以上を妊娠した場合の産前休業期間は98日間に延長されますので、その日数分、出産手当金の支給日数も多くなることとなります。(三つ子以上の妊娠でも98日間より延長されることはありません)

協会けんぽ加入後12カ月に満たない場合の計算方法


では、健康保険に加入してから12か月に満たない社員の方が産休を取得した場合は、出産手当金をどのように計算するでしょうか?

この場合は・・・

12カ月に満たない部分の、各月の標準報酬月額平均額

全国健康保険協会が別途発表する、全加入者の標準報酬月額平均額(令和5年度=30万円)

のうち、いずれか小さい額÷30日分×2/3を支給日額とします。

支給調整について

産休中に会社が独自に給与(賞与は除く)を支払っても、出産手当金の支給が減額されてしまうことにつき冒頭で触れました。

ここでは、出産手当金の支給調整内容について具体的に見ていくこととします。

まず、支給調整についても日額ベースで行われるということを踏まえておきましょう。

その内容については・・・

給与日額 > 出産手当金日額 の場合は 不支給

給与日額 < 出産手当金日額 の場合は 出産手当金日額から給与日額を引いた額を支給

となります。

なお、ここでの給与日額算定は、出産手当金日額の算定とフェーズを合わせるため、月額給与支給額を30日で割って計算します。

ちなみに、「通勤手当」や「住宅手当」「扶養手当」など、毎月「固定額」を支給している手当についても・・・

休業対象日を含む計算期間に、「休業日数に応じた減額支給」を行わなかった場合は、支給調整の対象となります。

賞与を支給した場合

それでは、出産手当金の支給対象期間中に賞与を支給した場合はどうなるでしょうか?

賞与を支給した場合については、支給調整は行われず、出産手当金の全額を受給することができます。

ちなみに、少し脱線しますが・・・

産休の取得を理由に賞与を支給しないことは、男女雇用機会均等法第9条で禁止されています。

賞与支給の目的には、今後の成績に対する期待も加味されるため、妊娠や出産を控えた従業員の賞与を減額査定することは、一概に違反とまでは言えません。

ただし、不利益取扱いにならない様、合理的な説明が必要となりますのでご注意下さい。

会社役員も出産手当金を受給できる

会社役員には労働基準法が適用されないため、労働基準法に定められた産休制度も適用がありません。

しかしながら、健康保険に加入している会社役員(会社代表者も含みます)であれば、妊娠・出産のために休業した場合、その期間に対する出産手当金を受給することができます。

その理由は・・・

産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

は、出産手当金の支給対象期間として健康保険法が独自に定めているからです。

よって、労働基準法の産休制度が利用できるか否かに関係なく、受給要件を満たす健康保険加入者であれば、その全てが出産手当金の受給対象者となるわけです。

【会社役員は育休時の育児休業給付金は受給できない


少し横道にそれますが、会社役員の場合、育児休業給付金は受給できるのでしょうか?

答えは×で、受給できません。

その理由は・・・

育児休業給付金は雇用保険法の制度

であるからです。

会社役員には雇用保険が適用されず、日頃から雇用保険料も支払っていませんので、仮に育児のために休業したとしても育児休業給付金を受給することはできません。

ただし、例外として雇用保険に加入している使用人兼務役員については、一般の労働者と同様、育児休業給付金を受給することができます。

任意継続被保険者は、出産手当金を受給できない

また、出産手当金に話を戻します。

次に、会社を退職した後も、保険料を全額自己負担すれば、最長2年間、引き続き離職した会社の健康保険に加入し続けられる任意継続被保険者の扱いについてです。

任意継続被保険者が、健康保険への強制加入義務が無い個人事業主のもとに再就職した場合で考えてみましょう。

任意継続被保険者としての加入期間である最長2年間が経過する前に、再就職先において出産のため休業するケースも考えられなくはありません。

個人事業主のもとで就労する場合でも、労働基準法の産休制度は適用されます。

めったにお目にかからないケースですが、上記のような場合、出産手当金は支給されるのでしょうか?

全国健康保険協会(協会けんぽ)では・・・

任意継続被保険者は出産手当金の支給対象外

としています。

健康保険が適用されていない、他の事業所での就労を休業した場合の話ですから、手当の支給対象から外されているのは当然のような気がします。

なお、健康保険組合の場合は(適用対象としているところは聞いたことがありませんが)、独自の定めがあるかもしれませんので、念のため加入先の組合へ確認して下さい。

妊娠85日以後の流産・人工妊娠中絶の場合も支給対象となる

労働基準法では、「出産」について以下のように定めています。

  • 妊娠85日以後の出産(早産を含む)
  • 妊娠85日以後の死産(流産)
  • 妊娠85日以後の人工妊娠中絶 

上記に該当した日は全て出産日とみなしますので・・・

その産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

についても出産手当金の支給対象となります。

なお、出産予定日より早く出産した場合や遅く出産した場合の取扱いについても、通常の出産の場合と同様となります。

産休中やむを得ず離職する場合

最後に、産休中に離職してしまった場合の扱いについてです。

健康保険法では、出産予定日42日前(多胎妊娠98日前)を過ぎてから離職する場合についても・・・

産前休業開始日から、産後56日間全てに対する出産手当金

を受給することができるとしています。

なお、この場合、退職日の翌日から産後56日目までの部分については、退職者へ対する継続給付の扱いによって支給が行われることとなります。

そのため、受給要件として・・・

連続して1年以上、健康保険に加入していること

退職日に出勤していないこと

の2点を満たしていなければなりません。

なお、上記の退職日に年次有給休暇等を取得していたとしても、出勤していなければ給付は認められます。

事業主の方にとっては、産休もしくは育休を取得し、職場復帰する予定であった社員が、思いがけず離職してしまうのですから、心中穏やかではないかもしれません。

ピンチ要員確保等の手配も行っていることを考慮すれば尚のことです。

あえて手当金を受給させてあげようと、会社から働きかけるケースもあるかもしれませんが、この場合は制度趣旨から外れることとなります。

ですので、表題はあくまでも、「やむを得ず離職する場合」とさせていただきました。

当然ながら、受給する労働者の側も、もともと離職するつもりでいて、この特例を利用するのは慎むべきことだと思います。

なお、この場合も、

医師・助産師による出産証明

勤務先による「出産のため休業したこと」と「賃金支払い有無」の証明

がなければ出産手当金の申請はできませんので再確認しておきましょう。


また、出産手当金の受給期間中については雇用保険から失業給付を受給することはできないことも押さえておきましょう。

それでは次は、出産時の給付金「出産育児一時金」の仕組みについて見ていきましょう。

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出産費用の給付「出産育児一時金

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さて、ここからは妊娠・出産に関わるもう一つの給付である、出産育児一時金について解説していきます。

(ここでは、船員保険の加入者や共済組合加入の公務員の方は除いて説明します)

出産費用は、帝王切開等、医療行為を必要とする分娩を除いて、医療保険が適用されません。

そのため、当該費用を補助するものとして、出産育児一時金の制度が定められています。

出産育児一時金というと、育児費用補助の役割も踏まえた制度名となっていますが、現実的には「出産一時金」と呼ぶべき給付内容になっています。

支給対象者

それでは、まずは支給対象者について見ていきましょう。

出産育児一時金については・・・

勤務先を通じて加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)又は健康保険組合

勤務先を通さず加入する国民健康保険もしくは国民健康保険組合

いずれからも、ほぼ同内容の給付が行われることとなっています。

勤務先を通じて加入する健康保険の扶養家族(被扶養者)となっている方が出産した場合については、加入者の方本人(被保険者)に対して「家族出産育児一時金」が支給されます。

なお、国民健康保険および国民健康保険組合については、被扶養者の概念が無いため、このような制度はありません。

出産育児一時金については、ほぼ全ての方が支給対象になると押さえておきましょう。

例外として出産育児一時金の支給対象外となるケース

ちなみに、ごく一部ですが、出産育児一時金についても支給対象の例外となるケースが無くもありません。

こちらも念のため、簡単に解説しておきます。

それでは、どのような方が支給対象外となるか?というと・・・

どの健康保険にも加入していない人

がその回答となります。

まず、最初に考えられるのが・・・

生活保護法の適用を受けており、且つ、勤務先を通じて健康保険に加入していない世帯の方

です。

生活保護法の適用を受けている世帯の方は、国民健康保険の加入対象から外れますので、どの健康保険にも未加入の状況となります。

こちらの方が出産した場合には、「出産扶助」等の補助が別途行われることとなっているため、出産育児一時金の支給は行われません。

次に考えられるのが・・・

在留資格が3カ月に満たない、あるいは3カ月以上となる見込みがない外国人の方で、勤務先を通じて健康保険に加入していない世帯の方

です。

上記の場合、在留資格要件を満たさず、国民健康保険に加入できませんので、どの健康保険にも未加入の状況となります。

なお、この場合は、出産育児一時金を受給することはできません。

あと、強いて言うならば・・・

何らかの理由で、どの健康保険にも加入しておらず無保険状態になっている世帯の方

も挙げられます。

この場合も出産育児一時金の支給対象にはなりません。

支給要件

次に、支給要件についてみていきましょう。

出産育児一時金の支給対象となる出産は、以下の要件を満たすものとなります。

  • 妊娠4カ月(85日)以上の生産
  • 妊娠4カ月(85日)以上の流産(人工妊娠中絶も含む)
  • 妊娠4カ月(85日)以上の死産

つまり、出産は4カ月以上であれば、生産・流産・死産の別を問わないということになります。

1カ月は28日で計算し、×3カ月=84日を超えるものを「妊娠4か月以上」

とします。

なお、勤務先を通じて加入する健康保険も、世帯ごとに自分で加入する国民健康保険も支給要件については、ほぼ同一となっています。

経済的理由による人工妊娠中絶の取扱い

妊娠4カ月以上であっても、経済的理由による人工妊娠中絶の場合は、加入する健康保険によって、要件が異なる場合がありますので、注意が必要です。


全国健康保険協会(協会けんぽ)については、経済的理由によるものであっても、4カ月以上の人工妊娠中絶であれば・・・

出産育児一時金の対象とすることを認めています。

ただし、健康保険組合(企業・業界組合単位)、国民健康保険(市区町村単位)あるいは国民健康保険組合(同業者組合単位等)については・・・

上記を認めている場合と認めていない場合があります。

加入先の健保が全国健康保険協会(協会けんぽ)以外の場合は、事前に確認しておくことが必要です。

出産育児一時金の支給金額

さて、続いては支給金額について見ていきましょう。

出産育児一時金は・・・

妊娠4ヵ月(85日)以上の方が出産した場合に

1児あたり50万円

が支給されます。


それでは、双子以上の出産である多胎出産の場合、出産育児一時金の支給額はどうなるでしょうか?

多胎出産の場合は・・・

産児の数だけ、支給額が倍増されます。

つまり、双子の出産であれば、50万円×2=100万円が支給されます。

三つ子の出産であれば150万円が支給されることとなります。

なお、産科医療補償制度の対象外となる出産の場合は、出産育児一時金の最高支給額は1児につき48.8万円に減額されます。

多胎出産の出産手当金は支給日数が多くなる

ちなみに、産前産後休業期間中に健康保険から支給される出産手当金は、双子以上の出産であっても手当金の日額が増額されることはなく、子1人を出産した場合の日額と同額となります。

ただし、子1人を妊娠した場合の産前休業期間は42日間であるのに対し、双子以上を妊娠した場合の産前休業期間は98日間に延長されますので、その日数分、出産手当金の支給日数も多くなることとなります。(三つ子以上の妊娠でも98日間より延長されることはありません)

多胎出産でも育児休業給付金は増額されない

いっぽう、育児休業期間中に雇用保険から給付が行われる「育児休業給付金」については、双子以上の出産であっても給付金額が増額されることはなく、子1人を出産した場合と同額になります。

産科医療補償制度とは?

先程、産科医療補償制度の対象外となる出産の場合は、出産育児一時金の最高支給額が1児につき48.8万円に減額されることを解説しました。

それでは、この支給額の大小に影響を与える産科医療補償制度とは・・・

一体どのような制度なのでしょうか?


まずは、制度内容と運営先について解説しますと・・・

出生児が重度の脳性まひとなった場合、その経済的負担を和らげるために補償が行われる制度

で、

公益財団法人 日本医療機能評価機構 が運営元

となっています。

ちなみに、出生児が満5歳の誕生日を迎えるまで補償の申請をすることができます。

続いて、補償内容と掛け金についてです。

申請の結果、補償対象と認定された場合は・・・

看護・介護のための準備一時金600万円

補償分割金2,400万円(120万円 /年 ×20年間)

の、合計3,000万円が補償金として支払われます。

掛け金は、この制度に加入する医療機関、もしくは助産所が負担することになっており・・・

1分娩あたり12,000円(令和4年1月改定)

となっています。

最後に、制度の加入有無で出産育児一時金の支給額が変わる理由についてです。

すでに、お気づきかと思いますが、この掛け金(12,000円)は、出産費用に上乗せ請求されることが考えられるため、出産育児一時金の支給額(500,000円)の中に含まれています。

対して、この制度に加入していない医療機関、もしくは助産所で出産する場合は、補償を受けることはできません。

よって、当然掛け金も発生しませんから、その相当額が出産育児一時金に上乗せされず支給(488,000円)されることになっているというわけです。

出産費用が一時金を下回った場合は差額申請できる

今度は、かかった出産費用が、出産育児一時金を下回った場合についてです。

現在、出産費用の全国平均額は50万円程度となっています。

しかしながら、出産費用については地域差等が大きく、一時金の金額以下となる場合もあります。

この場合、一時金を下回った差額分についても受給することが可能です。

ただし、差額を受給するためには所定の申請が必要となります。

具体的な申請方法については、後ほど解説します。

健保組合・国保組合加入の場合は、付加給付を受けられることがあ

ここまで、出産育児一時金は出産1児あたり50万円を上限に支給されると説明してきました。

ただし、この支給額、加入先の健康保険が・・・

勤務先を通じて加入する健康保険組合(いわゆる組合健保)

個人で加入する国民健康保険組合(同業者の国保組合等)

の場合は、各組合が独自に付加給付(増額支給)を行っている場合があります。

上記の組合に加入している場合は、加入先の組合に付加給付の有無を、事前確認しておきましょう。

ちなみに、個人で加入する国保組合であっても、医師の国保組合等は、かなり大きな金額の付加給付を行っていることがあります。

なお・・・

勤務先を通じて加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)

では、付加給付は行われていません。

各市区町村単位で加入する国民健康保険(市町村国保)についても、断言はできませんが、基本的に付加給付は行われていないようです。

国民健康保険料を滞納している場合

次は、国民健康保険料を滞納している場合、出産育児一時金の支給額がどうなるか?について見ていきます。

まず、前提として、勤務先を通じて健康保険に加入している方については、勤務先に保険料の徴収と納付の義務がありますので、加入者本人に滞納の問題は発生しません。

よって、ここで解説の対象となるのは、国民健康保険もしくは国民健康保険組合の加入者のみとなります。

さて、国民健康保険料(国民健康保険税)を滞納している方が出産した場合も出産育児一時金を受給できるか?についてですが・・・

答えは、「受給できる」です。

ただし、国民健康保険法、第63条2では・・・

1年6か月を超える滞納者への保険給付については、災害等の特別な事情がある場合を除いて、厚生労働省令に基づき、その全部または一部支払いを一時差し止めする

ことが定められています。

出産育児一時金の支給が差し止められるか否かについて断言はできませんが、仮に差し止められてしまうと、当面の出産費用を賄えなくなってしまいます。

各市区町村や加入先の国保組合では、出産費貸付制度を設けていますが、この制度は出産育児一時金の支給額を担保とした制度となっていますので、保険料を滞納している方はこちらも利用できないと考えておいたほうがよいでしょう。

国民健康保険料(国民健康保険税)に滞納がある方は、滞納期間が1年6か月を超えているか否かに関わらず、必ず加入先国保の窓口へ事前相談しておきましょう。

出産費貸付制度とは?

さて、先ほど少し触れた、出産費貸付制度についても簡単に解説しておきます。

出産費貸付制度とは、出産費用に充てるため・・・

出産育児一時金(家族出産育児一時金)支給までの間、その8割相当額を限度に資金を無利子で貸し付ける制度

です。

返済は、出産育児一時金の支給額から差し引きすることにより行われます。


この制度の利用対象者は・・・

出産予定日まで1ヵ月以内の方

または・・・

妊娠4ヵ月以上で医療機関等に一時的な支払いを要する方

となります。

上記は、全国健康保険協会(協会けんぽ)が定める制度内容についての解説ですが、他の健康保険組合(組合健保)、国民健康保険(各市区町村)、国保組合(同業者組合等)でもほぼ同じ内容の制度を運営しています。

なお、この貸付を利用する方は、後述する出産育児一時金の「直接支払い制度」や「受取代理制度」を利用することはできません。

一時金はいつ支払われる?直接支払い制度とは?

それでは、ここからは支給時期について見ていきましょう。

まずは、出産先の医療機関や助産所が直接支払制度を実施している場合についてです。

この場合は・・・

健康保険への出産育児一時金の請求手続きは、その医療機関等が代行してくれます。

そして、出産育児一時金は健康保険から医療機関等へ直接支払われることとなります。

結果として・・・

出産する方本人は、出産育児一時金の上限額を超えた分の費用のみを医療機関等へ支払えば済むこととなります。

ただし、出産費用が出産育児一時金を下回った場合、差額を受給するためには申請が必要となります。

この制度は大多数の医療機関等で実施されており、協会けんぽ・健保組合・国民健保・国保組合いずれの加入者も対象となっています。

だし、先ほども少し触れましたが、出産費貸付制度を利用する方については、出産先の医療機関等が直接支払い制度を実施していたとしても、この制度を利用することはできませんのでご注意下さい。

その理由は、出産費貸付制度は、出産育児一時金の支給額からその利用額を差し引いて返済する仕組みになっているからです。

直接支払い制度を実施していない医療機関・助産所もある

ちなみに、この直接支払い制度、出産する本人にとっては非常に有難い制度なのですが、医療機関にとっては、本人に代わって健康保険へ支給申請を行うための事務負担が発生することとなります。

そのため、一部の小規模医療機関や助産所では実施していない場合があります。

ただし、直接支払い制度を実施していない医療機関等でも、「受取代理制度」の利用をすることができれば、出産育児一時金の上限額まで自己負担なしで出産することができます。

受取代理制度とは

受取代理制度とは・・・

加入先の健康保険へ申請することにより、出産育児一時金の医療機関等による代理受取を可能とする制度

です。

この制度を利用すると・・・

直接支払い制度と同等の費用負担軽減を図ること

ができます。

なお、直接支払い制度との大きな違いは以下の2点となります。

  1. 出産費用が出産育児一時金を下回った場合も、差額受給の申請が不要であること
  2. 健康保険への申請手続きは、自分自身で行わなければならないこと

(申請方法については後ほど解説します)

また、受取代理制度を利用するにあたっては、以下の3点に注意しておく必要があります。

まず、1つ目の注意点は・・・

受取代理制度を利用できる医療機関等は、厚生労働省へ届出を行った一部の医療機関等に限られる

ため、必ず利用できるとは限らないことです。

出産候補先の医療機関や助産所が、直接支払い制度を実施していない場合は、まず受取代理制度を利用可能かどうか確認しておきましょう。

受取代理制度を利用できない場合は、本人が出産費用を全額自己負担し、後日、健康保険へ直接請求しなければならないこととなります。

ただし、加入先の市町村国保等で「受領委任払い制度」を利用できる場合は除きます。(詳しくは後ほど解説します)

次に、2つ目の注意点は・・・

受取代理制度を申請できるのは、出産予定日まで2カ月以内の方に限られる

ことです。

妊娠中に胎児や母体の状態が芳しくなかったりすると、本人が希望しなくても転院しなければならない場合があります。

転院した場合は手続きの取消しが必要となりますので、できるだけ事務負担が発生しないよう、申請できる方は2か月以内の方に限定されています。

そして最後に3番目の注意点は・・・

出産費貸付制度を利用する人は、受取代理制度を利用できない

ことです。

理由は、直接支払い制度が使えない理由と同じで、出産育児一時金から貸付返済が行われる仕組みとなっていることにあります。

市町村国保等では受領委任払い制度を利用できる場合がある

先ほども軽く触れましたが、直接支払制度も受取代理制度も利用できない医療機関等で出産する場合であっても、

加入している健保が国民健康保険(市町村国保等)である場合は、受領委任払い制度を利用できることがあります。


この制度は、出産する方が市町村国保等へ申請することにより・・・

出産育児一時金の受領を医療機関等に委任することができる制度

です。

こちらを利用すれば、直接支払い制度や受取代理制度と同じように、

退院時の支払いを出産育児一時金と出産費用の差額分だけにすることができます。

加入先の健康保険が市町村国保等の方は、この制度が利用できるかどうか、ぜひ確認しておきましょう。

なお、この制度も出産費貸付制度を利用する人は利用できません。

健康保険へ直接請求した場合の入金タイミング

直接支払い制度も受取代理制度も利用せず出産する場合は、一部の場合を除き、本人が出産費用を全額自己負担し、後日、健康保険へ直接請求しなければなりません。

この場合、支給申請を行った後、

一時金が指定した銀行口座へ入金されるまでには1~2カ月程度かかる

ものと見ておきましょう。

急ぎの場合は、直接、申請先へ事前確認しておくことをおすすめします。

出産育児一時金には所得税・社会保険料がかからない

出産育児一時金は所得としてみなされず、社会保険料(労働保険料を含む)も一切かかりません。

念のため確認しておきましょう。

出産育児一時金の支給申請手続き

さて、ここからは、出産育児一時金の支給申請手続きについて、解説していきます。

なお、ここでは全国健康保険協会(協会けんぽ)の手続きについて解説していきます。

  • 健康保険組合(組合けんぽ)
  • 国民健康保険(市町村国保)
  • 国民健康保険組合(国保組合)

の手続きについては、各健保のホームページもしくは窓口へ直接確認していただきますようお願いします。

直接支払い制度利用の場合

それではまず、直接支払い制度を利用する場合の手続き方法について解説します。

この場合は、出産先の医療機関等が申請手続きを代行してくれますので、原則、手続きは発生しません。

本人と医療機関等との間で代理契約合意文書を取り交わすのみとなります。

ただし・・・

出産費用が出産育児一時金の上限額を下回った場合については、別途、差額支給の申請が必要となります。

ちなみに、受取代理制度を利用した場合は、何もしなくても差額支払いを受けられますので、差額支給を申請する必要はありません。(ただし、受取代理制度自体の利用申請は利用者本人が行わなければなりません)

差額支給の申請方法

出産3カ月後を目途に、全国健康保険協会から出産した本人宛に・・・

「差額申請のご案内」と、申請内容があらかじめ印字された「出産育児一時金差額申請書」

が送付されます。

上記の「差額申請のご案内」にしたがい、所定箇所へ記入・署名を行えば、医師の証明受入れや、添付書類の準備を要さず、簡単に申請を行うことができます。

なお、「差額申請のご案内」が届く前に申請したい場合は・・・

勤務先の会社を管轄する全国健康保険協会支部あてに「出産育児一時金内払金支払依頼書・差額申請書」を提出

します。

申請書の所定欄へ記入・署名をおこない、出産証明欄へ、医師・助産師もしくは市区町村の証明を受入したうえで、以下の書類を添付して申請します。

<添付書類>

  • 出産医療機関交付の出産費用の領収・明細書コピー
  • 出産医療機関交付の直接支払制度に係る代理契約に関する文書コピー

以上が、差額支給の申請方法となります。

なお、この申請は、出産日翌日から2年以内であれば行うことができます。

受取代理制度利用の場合

医療機関が直接支払制度を実施していない場合の手続方法は、受取代理制度を利用するか否かにより大別されます。

医療機関が直接支払制度を実施していない場合は・・・

まず、医療機関へ受取代理制度の利用可否を確認し

利用可であれば健康保険に対し受取代理制度利用の申請手続きを行う

こととなります。


なお、出産先の医療機関等で受取代理制度を利用できる場合は、以下の手順にしたがい手続を行います。

医療機関等への制度利用申し入れ

まず、出産する本人が受取代理制度の利用を申し入れした後、利用可能であれば・・・

医療機関から受取代理制度利用欄に署名済の、出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)の発行を受けます。

あらかじめ、全国健康保険協会のホームページから申請書式を印刷し、医療機関への利用申し入れを行うとスムーズに手続きが進みます。

②出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)の提出

発行された申請書の本人記載箇所へ、記入・署名のうえ、勤務先の会社を管轄する全国健康保険協会支部宛てに提出します。(郵送でも提出可)

なお、この申請は、出産予定日前2カ月以内になってからでないと、受理されません。

以上で、受取代理制度を利用する場合の申請手続きは終了です。

受取代理制度を利用しない場合の申請手続き

医療機関で受取代理制度を利用できない場合は、本人がいったん、出産費用全額を支払い、後日、以下の手順にしたがって、健康保険へ出産育児一時金の支給を申請します。

①出産証明の受入

まずは、

出産育児一時金支給申請書の出産証明欄に、医師・助産師または市区町村長の証明を受けます。

証明が受けられない場合は、下記いずれかの書類を提出し、証明とします。

  • 戸籍謄本あるいは戸籍抄本
  • 出生届受理証明書
  • 戸籍記載事項証明

など、出産した事実を確認できる書類

②出産育児一時金支給申請書および添付書類の提出

出産育児一時金支給申請書の本人記載箇所へ記入・署名のうえ、以下の書面を添付し、会社を管轄する全国健康保険協会支部へ提出します。(郵送でも提出可)

出産費用の領収書・明細書の写し

産科医療補償制度の対象分娩であれば50万円(*)の出産育児一時金が支払われます。
(*)産科医療補償制度対象外分娩の場合は48.8万円

上記の対象分娩であるか否かの確認は、医療機関等がその旨を証して発行した領収書・明細書を確認することにより行われます。

また、直接支払制度を実施していない場合には、その旨についても、領収書・明細書に記載されることが多くなっています。

【直接支払制度を実施していないことを証明する書類のコピー

領収・明細書上で直接支払制度を実施していない旨を確認できない場合は、医療機関等が発行した、実施が無いことを証明する書面の提出が必要となります。

海外出産の場合

海外で出産した場合であっても、帰国後に出産育児一時金を申請することが可能です。

この場合・・・

出産した医療機関等や出産した国の公的機関が発行する出生の証明書(原本)と、その和訳が必要です。

また、流産・死産の場合は・・・

妊娠期間が4カ月以上(85日以上)であったことの証明とその和訳が必要です。


他にも、現地の公的機関が発行する戸籍謄本(抄本)等、出生の事実が確認できる書類の提出を求められる場合があります。

必要な書類について、申請先の窓口へ事前確認しておきましょう。

以上が、いったん出産費用の全額を支払った場合の出産育児一時金支給申請手続となります。

支給申請後、銀行口座入金までは1~2カ月程度みておきましょう。

なお、上記の場合、出産日の翌日から2年以内であれば、支給申請を行うことができます。

産前期間中に退職した場合の出産育児一時金支払い

勤務先を通じて加入していた健康保険の場合、退職日の翌日から6ヵ月以内に出産した場合は、被保険者資格を喪失していても、出産育児一時金を受給することができます。

ただし・・・

退職日までの被保険者期間が連続して1年以上ある場合に限ります。

1日でも被保険者期間が途切れている場合は支給対象になりません。

上記の要件を満たさない場合は、退職後に加入した国民健康保険等から出産育児一時金を受給することとなります。

さて、それでは退職日の翌日から6か月以内に、夫が加入する健康保険の被扶養者となった後に出産した場合はどうなるでしょうか?

この場合は・・・

本人がもともと加入してした健康保険被保険者資格に基づき支給される出産育児一時金か、

夫の被扶養者として再加入した資格に基づき支給される家族出産育児一時金

のどちらかを選択して受給手続きを行うこととなります。

この場合は、付加給付を受けられる健康保険の方を利用したほうがよいでしょう。

ちなみに、家族出産育児一時金の場合は・・・

退職日の翌日から6か月以内に、退職した本人の被扶養者であった家族が出産しても、家族出産育児一時金は支給されません

退職日の翌日から6か月以内の出産が支給対象となるのは、あくまでも、出産する本人が退職し、健康保険の被保険者資格を喪失した場合ですので、混同しないよう注意して下さい。

出産育児一時金を上回る出産費用の医療費控除〔ご参考〕

それでは最後に、出産費用の医療費控除について、参考までに解説しておきます。

出産に要した費用は医療費ではありませんが・・・

公的な補助を受けられる範囲を上回る部分の出産費用については、

他の医療費と合算して所得税の医療費控除(地方税も控除されます)を申告することができます。

つまり、出産育児一時金の支給額を上回った部分の出産費用については、医療費控除の対象になり得るということです。

年間の医療費と合算し、10万円(総所得金額が200万円未満の場合、総所得金額の5%)を超える場合

は、確定申告を行うことで支払った税金の控除を受けられますので・・・

妊婦検診時や出産時の領収書・明細書は大切に保管しておきましょう。

なお、詳細は税理士先生又は所轄の税務署窓口へご確認いただきたくお願い致します。

産休中の社会保険料免除について

さて、ここからは、産前産後休業期間中の社会保険料免除について解説していきます。

まず最初に、免除対象となる社会保険料の種類についてみていきましょう。

免除対象となる社会保険料の種類

まずは、社会保険料の定義についてですが、一般的に「社会保険料」と言いますと・・・・

狭義の意味での「社会保険料」である、

a.国民健康保険料(税)・健康保険料・介護保険料・国民年金保険料・厚生年金保険料

に加えて・・・

b.雇用保険料や労災保険料といった「労働保険料」

も含めて、その全てを「社会保険料」と呼ぶ場合があります。

これに対して・・・

産休期間中に免除となる「社会保険料」は、上記a.狭義の意味での「社会保険料」のみを指し、雇用保険料や労災保険料は含みませんので注意して下さい。

なお、上記の中の国民健康保険料については、市区町村を通じ加入する国民健康保険料(税)も含め、令和6年1月から全面的に免除制度が開始されています。

令和6年1月以降、国民健康保険料・国民年金保険料ともに、産休期間中については免除制度が整うこととなりましたが、いずれの保険料も育休期間中については、免除対象とはなっていません。

育休期間中の保険料が免除となるのは、勤務先を通じて加入する健康(介護)保険料・厚生年金保険料のみとなります。

産休期間中の雇用保険料と労災保険料

産休期間中のb.「労働保険料」の取扱いについても念のため、触れておきます。

雇用保険・労災保険については、会社が毎年1回保険料を申告し、一括または分割で支払います。

具体的には、原則6/1~7/10の間に、前年4/1~当年3/31まで1年間の賃金支払総額を集計し、保険料を算定のうえ申告します。

さて、ここで重要なポイントとなりますが・・・

この申告の際、産休対象者の有無は考慮されません。

ということは、結果的に保険料免除の対象外であるということになります。

雇用保険料については、賃金支払いの都度、労働者の本人負担分を会社が預り金として徴収しておき、申告後に会社負担分と合わせて納付します。

産休期間中であっても、給与や賞与など、賃金を支給する場合は、通常通り徴収が必要となりますので注意が必要です。

このことは育休期間中であっても同様です。

なお、労災保険料は会社のみ負担となっていて労働者負担分はありませんので、このような手続きは発生しません。

免除を受けるには申請が必要

産休期間中の社会保険料免除を受けるためには申請が必要となります。

具体的には、会社員として健康保険・厚生年金に加入している場合は、勤務先を通じて、日本年金機構もしくは加入先の健保組合に対して、産前産後休業取得者申出書を提出します。

この申出書は産休期間中に提出しなければなりませんので注意して下さい。

申請のタイミングは、出産前でも出産後でもよいのですが、出産日が確定しないと保険料免除期間も確定しないため、出産後に申請したほうがスムーズに手続きすることができます。(この点については、後ほど解説します)

出産前に申請した場合は、予定日どおり出産した場合を除き、確定後の産前産後休業期間について、改めての変更申請が必須となります。

なお、出産日の到来を待って申請を行った場合、産前期間中の社会保険料については、免除の申請が承認となる前に日本年金機構もしくは加入先の健保組合から納入の告知が行われてしまうことが通例となります。

この場合、いったんは本来免除となるべき保険料額を含めて納入することとなりますが、その翌月以降の保険料が減額調整されますので、トータルで支払う保険料の額に多い少ないの差は生じません。

国民健康保険・国民年金に加入している場合は、加入先の市区町村窓口もしくは国民健康保険組合の定めにしたがい、加入者本人が手続きを行います。

なお、市町村国保も含めた国民健康保険料の免除制度は、令和6年1月から開始されています。

(国民年金保険料の免除制度については、平成31年4月から施行済です)

本人負担分・会社負担分ともに免除対象となる

勤務先を通じて加入している社会保険料の場合、その免除期間中は、労働者本人負担分、会社負担分のどちらも免除となります。

標準報酬月額(≒給与平均額のイメージ)の約15%ずつが免除となりますから、金額的にも非常に大きいです。

なお、これらは育休期間中についても同様となります。

賞与についても保険料免除の対象となる

勤務先を通じて健康保険・厚生年金に加入している場合で、賞与が支給された場合はどうなるでしょうか?

この場合も、労働者本人負担分・会社負担分ともに、健康(介護)保険料・厚生年金保険料を合わせて、標準賞与額(*)にかかる保険料の全てが免除となります。

(*)税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた額(健康保険は年度累計573万円・厚生年金保険は月あたり150万円が上限)

また、この場合・・・

賞与支給額の査定対象期間がいつであるかは問いません

支給日が産休期間中にあるか否かでのみ決定します。

厳密には、産休期間=保険料免除期間ではないのですが、ひとまず、このように理解しておいて下さい。

ちなみに、少し脱線しますが・・・

産休の取得を理由に賞与を支給しないことは、男女雇用機会均等法第9条で禁止されています。

賞与支給の目的には、今後の成績に対する期待も加味されるため、妊娠や出産を控えた従業員の賞与を減額査定することは、一概に違反とまでは言えません。

ただし、不利益取扱いにならない様、合理的な説明が必要となります。

保険料免除期間中の年金額計算

国民年金・厚生年金保険料が免除されている間については・・・

免除が開始される直前の標準報酬月額等級に基づき計算した保険料を納付したものとみなされます。

よって、将来受取る年金の額が減額される心配はありません。

産休期間=免除期間ではない

さて、ここまで、「産休期間中は社会保険料が免除される」という言い方をしてきました。

しかしながら・・・

実際の「免除期間」は「産休期間」と同一ではありません。

どういうことなのか見ていきましょう。

保険料免除期間の決まり方

まず、免除期間はどのように定められているか解説します。

なお、ここからの解説は、勤務先を通じて健康保険・厚生年金に加入している場合の保険料免除制度を対象に行っていきます。

国民健康保険、国民年金に加入している方の保険料免除制度については以下の章をご参照下さい。

健康保険法・厚生年金保険法では、社会保険料免除期間について・・・

妊娠・出産のための休業を開始した月から、終了日の翌日の属する月の前月分まで

と定めています。

保険料免除期間は月単位で決定

1つ目のポイントは、月単位で決定される点です。

月単位で免除月が決まりますので、日単位で定まる産休期間とは当然ながら一致しません。

免除開始は休業開始月から

2つ目のポイントは、「休業開始月から」免除となることです。

仮に産休開始日が月末日であっても、その月の保険料は全額免除となります。

産休を予定している社員の方がいる場合は・・・

保険料徴収をした月と同じ月内に、後から産休を開始すると、返金等の後日清算が必要になる場合があります

先回りして、注意が必要です。

月末日にかけて産休していない月は免除されない

3つ目のポイントは、「終了日の翌日の属する月の前月まで」免除となることです。

仮に、産休終了日が27日などの月末近くであっても、その月の保険料は徴収しなくてはならず、免除期間はその前月までとなります。

ただし、産休終了日が月末日の場合は、その月の保険料についても免除されます。

「月末日の翌日の属する月の前月」は・・・当月ということです。

つまり、月末日にかけて産休していない月は免除対象とならないということです。

ちなみに、この考え方は、育児休業期間中の社会保険料免除にも適用されます(*)。

また、社員入社時や退職時の社会保険料支払いについても考え方は全く同じです。

(*)
育休を取得した場合に限り、休業開始日と終了日が同一月内にあり、かつ14日以上休業した場合、その期間の社会保険料を全額免除とするルールが追加適用されます。

以下に参考として記載しておきます。

資格取得時・喪失時の保険料について(参考)

健康保険料・厚生年金保険料の支払いは・・・

  • 被保険者資格を取得した日の属する月の分から
  • 被保険者資格を喪失した日(=退職日の翌日)の属する月の前月分まで

となっています。

保険料免除期間中の給与引き落し停止手続きはどうやる?(リンク)

ここまでの解説で、産休期間中の社会保険料免除の仕組みについて、基本的なところは理解できたかと思います。

とはいっても、実務を担当する方は「実際どのように給与からの保険料徴収を停止したらよいか?」の説明がないと気がかりなのではないでしょうか?

記事が多くなり過ぎますので、ここでは解説しませんが、以下のページへのリンクを貼らせていただきますので、ぜひ参考にして下さい。

会社役員の場合、産休中は社会保険料免除となるが、育休中は免除されない

代表者や役員が会社を通じて加入している健康(介護)保険料・厚生年金保険料については・・・

産休中は免除対象になります

が・・・

育休中は免除対象になりません。

なぜ、このようなルールになっているのでしょうか?

できるだけ、わかりやすく解説します。

なお、ここでの会社役員からは、使用人兼務役員を除きますのでご注意ください。

会社役員も産休中の社会保険料免除はOK

まずは、会社代表者や役員が産休した場合の健康(介護)保険料・厚生年金保険料の免除がどのような背景で適用されているか解説します。

上記、産休期間中の社会保険料免除は、健康保険法・厚生年金保険法の制度に則り運用されています。

この中で、同法は・・・

産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

を「社会保険料免除の対象となる期間」としています。

この期間は、あくまでも健康保険法・厚生年金保険法で定めるものであり、労働基準法で定める産前産後休業期間とイコールではありません。

よって、労働基準法が適用されない会社代表者や役員であっても、健康保険法・厚生年金保険法で定める妊娠・出産を理由とした休業をすれば、保険料が免除されることになっています。

会社役員の育休中、社会保険料免除はNG

健康保険法・厚生年金保険法は、育休期間中の社会保険料免除についても定めています。

ただし、この中では育休期間について、「産前産後休業期間」のように個別の定めをしていません。

つまり、ここでの育休期間は、育児介護休業法を根拠とした子が1歳(延長の場合は最長2歳)になるまでの育児休業期間、および子が3歳になるまでの育児休業に準ずる期間とイコールになっています。

よって、育児介護休業法が適用されない会社代表者や役員には、社会保険料免除も適用されないことになっています。

妊娠85日以後の流産・人工妊娠中絶の場合も免除対象となる

労働基準法では、「出産」について以下のように定めています。

  • 妊娠85日以後の出産(早産を含む)
  • 妊娠85日以後の死産(流産)
  • 妊娠85日以後の人工妊娠中絶

上記に該当した日は全て出産日とみなしますので・・・

その産前6週間(多胎14週間)と産後8週間において取得した妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

についても、保険料免除の対象となります。

ただし、(念のため復習ですが)実際に免除対象となる期間は・・・

上記の休業を開始した月の分から、終了日の翌日の属する月の前月分まで

となりますので、注意して下さい。

令和4年10月より保険料免除ルールが改定されたのは育休の場合のみ

さて、ここから先は、少し細かい制度内容について見ていきましょう。

以前の解説で、勤務先を通じて加入している健康(介護)保険料・厚生年金保険料の「免除期間の考え方は、産休期間も育休期間も同様となっている」と触れました。

休業開始日が月末日でも、その月の保険料は徴収しない

というルールがありました。

が、これが育休期間に適用される中で、少し悩ましい問題を引き起こしてきました。

月末1日だけ育休を取得させて、その月に賞与を支給すれば社会保険料がタダになる!?

このような、話を聞いたことはありませんでしょうか?

産休の場合はその性格上、1日だけ取得するというのは明らかに不自然ですので、このようなケースは発生しないでしょう。

ただし、育休の場合は、夫である男性社員等が1日だけの取得を希望しても不自然ではありません。

このため、ルール上は、もっぱら保険料削減を目的としたような申請をできなくもありませんでした。

少し話は脱線しますが・・・

育休期間中の社会保険料免除においては、子が1歳になるまでの育休期間に加え、子が3歳になるまでの養育期間中、育休に準ずる休業をした場合についても免除期間に含めることとされています。

免除対象となる子の年齢も拡充されている中で、「まずは、3歳未満の子がいる社員を探して・・・」ということが問題視されてきたということです。

育休期間中の社保免除ルール改定内容

上記の問題を背景として、令和4年10月以降は、

連続1カ月超の育休を取得した場合のみ、賞与からの保険料徴収を免除とする

よう法改正されました。

ただし、この法改正は、あくまでも育休取得者に限った話です。

「産休開始日が月末日でも、その月の1日以降に支払われた賞与から保険料徴収しない」

という産休期間中の保険料免除ルールに変更はありませんので混同しないように注意しましょう。

また、この法改正は賞与に限った話であり、給与に対する保険料免除ルールは育休期間中であっても、上記同様に変更されていません。

ですので、月末日が育休開始日であり、その翌月にまたがり休業した場合は、開始日が属する月に支給された給与にかかる保険料については、全額免除されることとなります。

ちなみに、同時に行われた法改正として・・・

育休開始日と育休終了日の翌日が同月内の場合であっても、14日以上の育休期間があれば、保険料免除の対象とする

ルールが新設されました。

このルールは、出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)の新設に伴い設けられています。

こちらについても、育休に限ったルール新設であり、産休期間中の保険料免除ルールに変更はありませんので混同しないよう注意しておきましょう。

なお、出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)について知りたい方は、以下の記事をご参照下さい。

出産日が確定しないと免除期間も確定しない

さて、もう一つ、しっかり確認しておくべきことがあります。

それは、表題にもあります通り、勤務先を通じて加入している健康(介護)保険料・厚生年金保険料については、出産日が確定しないと保険料免除期間も確定しないということです。

いったいどういうことなのでしょうか?

さきほど、健康保険法・厚生年金保険法で定める「妊娠・出産を理由に労務の提供を行わなかった期間」は、労働基準法で定める「産前産後休業期間」とイコールでないことを解説しました。

もう一度、健康保険法・厚生年金保険法の定めについて確認いたしますと・・・

産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間

が社会保険料の免除対象期間となっています。

ここでの大きなポイントは、上記の休業期間を出産予定日からではなく、実際の出産日から起算している点です。
(ただし、予定日より遅く出産した場合は、出産予定日から起算する定めが別にあります)

当初出産予定日よりも早く出産した場合

労働基準法で定める産前休業開始日は、出産予定日から起算した一定の日であり、予定より早く出産した場合も後から変更されることはありません。

対して、健康保険法・厚生年金保険法で定める社会保険料免除期間は、実際の出産日から起算することとなっているため、後から変更となる場合があります。(予定日より遅く出産した場合は、当初出産予定日から起算する定めとなっているため変更されません)

つまり・・・

予定日より早まった日数を繰上げて、再判定した中に・・・

「妊娠・出産のため労務に服さなかった」日があれば、その日も保険料免除期間に含めることができる

ということです。

よって、出産日が確定しないと、健康保険法上の社会保険料免除期間は確定しないこととなります。

例えば、当初産休開始日の直前に、年次有給休暇や所定休日、欠勤日をくっつけているような場合がこれにあたります。

年次有給休暇等も含める点に注意してください。

なお、これらの日が、当初産休開始日と連続していなければならないルールはありません。

ただし・・・

「妊娠・出産のため労務に服さなかった日」でなければ、保険料免除期間に含めることはできません。

当初出産予定日よりも遅く出産した場合

それでは次に、予定よりも遅く出産した場合はどうなるでしょうか?

出産が予定日より後になった場合については、当初の出産予定日から社会保険料免除期間を数える

ルールとなっています。

つまり、予定より早く出産した場合のように、妊娠・出産を理由とした休業期間の再判定を行う必要は生じません。

ただし、予定日から遅れて出産した分、産休終了日が繰り下がりますので、

出産予定日前に保険料免除を申請済であれば、免除終了日の変更申請が必要になります。

ちなみに、この考え方は、出産手当金の支給対象日を決定する際にも同じく適用されます。

当初予定より、免除対象月が繰り上がる場合に注意

ここまで、勤務先を通じて加入している健康(介護)保険料・厚生年金保険料については、出産日が確定しないと免除期間が確定しないことについて解説しました。

では次に、実務上、気をつけておくべきケースを見ていきましょう。

保険料免除期間は月単位で決定されますので、注意しておかなければならないのは以下のケースとなります。

それは・・・

予定日よりも前に出産し、免除対象となる休業開始日が前月に繰り上がった結果、保険料免除の開始月も、ひと月前に変更となる

ケースです。

この場合・・・

すでに社員の方から徴収した保険料を返金する等、後日清算しなければならない場合があります

ので注意して下さい。

また・・・

出産予定日前に保険料免除を申請済であれば、期間変更の申出も必要になります。

月の前半に産休を開始した社員の方がいましたら、その前月中に、妊娠・出産のため、休暇または欠勤した日が無いか?確認しておきましょう。

なお・・・

前月が賞与支払月であれば、賞与から徴収した保険料についても免除の対象となります

この場合は、忘れずに免除の対応をするよう注意が必要です。

出産前後の国民年金保険料免除制度について

さて、ここからは、自営業者やフリーランスの方々など、市区町村の窓口や同業者組合を通じて国民年金に加入している方の保険料免除制度について見ていきましょう。

2019年3月までは、産休中の年金保険料免除制度は、厚生年金のみに適用されてきました。

よって、自営業者やフリーランスの方々が妊娠・出産のために休業しても、国民年金保険料は免除されてきませんでした。

そこで、2019年4月以後、出産前後の国民年金保険料免除制度が新設されました。

就労していない人も免除対象になる

この制度の大きなポイントは、

働いているか否かにかかわらず国民年金保険料の支払いを免除とする

点です。

世帯収入による制限もありません。

ただし・・・

対象となるのは、国民年金1号被保険者として国民年金保険料を納付している人

に限ります。

学生であっても、国民年金保険料を納付していれば免除の対象となります。

免除期間は出産予定日・出産日のいずれか一方により決定

具体的な免除期間は・・・

出産予定日、または出産日が属する月の前月から数えて4ヵ月間

となります。

多胎妊娠の場合は・・・

出産予定日、または出産日が属する月の3か月前から数えて6か月間

となります。

この場合の出産には、妊娠85日目以後の死産・流産・早産を含みます。

なお、出産前に申請(*)した場合は「出産予定日」を基準とし、出産後に申請した場合は「実際の出産日」を基準として免除対象月が決定されます。
出産予定日の属する月と、実際の出産日の属する月がずれたとしても、(原則)後から免除月の変更は行いません。

(*)免除申請は、出産予定日の6か月前から行うことができます。

4か月分の保険料が免除された場合(令和6年度保険料月額)16,980円×4=67,920円が免除となります。

上記で保険料免除が認められた期間は保険料を納付したものとみなされます。
よって、将来、年金受給額が減る心配はありません。

なお、国民年金保険料に上乗せして納付する「付加年金」保険料等については、上記の免除対象とはなりませんのでご注意下さい。

国民健康保険料の免除制度も開始となりました(令和6年1月1日~)

今まで、個人事業主の業界団体等で組織する国民健康保険組合(国保組合)では、独自に保険料免除の制度を設けているケースがありましたが、各市区町村が運営する国民健康保険制度には、ごく一部の自治体を除き、出産前後の保険料を免除する制度はありませんでした。

令和6年1月1日からは、すべての国民健康保険料について、出産前後の期間に対する保険料が免除されることとなりました。

免除となる期間


免除期間は・・・

出産予定日、または出産日が属する月の前月から数えて4ヵ月間

多胎妊娠の場合は・・・

出産予定日、または出産日が属する月の3か月前から数えて6か月間

となります。

なお、上記の出産には

妊娠85日目以後の死産・流産・早産を含みます。

以上については、国民年金保険料の免除制度と同内容となります。

また・・・

  • 出産前に申請(*)した場合は「出産予定日」を基準に免除対象月を決定すること
  • 出産後に申請した場合は「実際の出産日」を基準に免除対象月を決定すること
  • 出産予定月から実際の出産日の属する月がずれても、(原則)後から免除月の変更は行わないこと

についても、 国民年金保険料の免除制度と同内容となります。

(*)免除申請は、出産予定日の6か月前から行うことができます。

免除要件と免除対象者

  • 働いているか否かにかかわらず国民健康保険料の支払いが免除となること
  • 世帯収入による制限なく免除されること

についても、国民年金保険料の免除制度と全く同じです。

なお、

保険料免除の対象となるのは、国民健康保険に加入している出産する方ご本人分のみ

となりますが・・・

国民健康保険は、世帯主の方が世帯全体の保険料を一括して納付する仕組みとなっているため・・・

実際の保険料免除は、世帯主の保険料納付総額から、出産する方ご本人分の「所得割額」「均等割額」4カ月分(*)を減額することにより行われます。

(*)多胎出産の場合は6か月分となります。

なお、免除制度は、令和6年1月1日から施行されています。

妊産婦の就業制限・母性健康管理措置等について

それでは、最後に、妊産婦の就業制限・母性健康管理措置等、妊娠中の女性従業員に対して事業主が守らなければならない母性保護の規定について解説していきます。

女性の妊娠・出産は、母体の変化だけでなく、精神的にも大きな負担となり、様々な症状を引き起こす場合があります。

また、出産後は精神疾患が発症しやすい時期とも言われています。

そこで、国は働く女性労働者の母性保護を図るために・・・

  • 妊産婦に対する各種就業制限を「労働基準法」
  • 母性健康管理措置等を「男女雇用機会均等法」

のなかで定めています。

会社手続き担当者の方はこの内容を、妊娠・出産を控えた社員の方からの質問に備えて、事前にしっかり理解しておかなければなりません。

なお、ここでは、労働基準法等の適用対象外となっている公務員の方は除いて解説していきますのでご了承下さい。

母性保護のため、法で定める措置

それでは、まず母性保護の仕組みとして、妊娠・出産期にある女性労働者に対して、法律上どのような措置が定められているか、一通り全体像を見ておきましょう。

なお、この記事では、妊娠中の女性と出産後1年を経過しない女性(=産婦)を合わせて「妊産婦」と呼ぶこととします。

労働基準法で定める6つの「母性保護」措置

下記については、業規模の大小を問わず、全ての事業主が守らなければならないことになっています。

経営者の方、労務担当者の方は、この記事でしっかり確認しておいて下さい。

  1. 軽易業務への転換(申出がある場合) 
  2. 危険有害業務の就業制限
  3. 時間外労働制限(申出がある場合) 
  4. 休日労働・深夜労働制限(申出がある場合) 
  5. 産前6週(多胎14週)、産後8週間における休業措置(産前産後休業制度) 
  6. 生理休暇(申出がある場合)

なお、この記事では、妊娠・出産期を対象として法に定める措置についてのみ解説していきます。

出産後・育児期を対象とした就業制限措置について知りたい方は以下の記事をご参照下さい。

それでは、ひとつずつ解説していきます。

1.軽易業務への転換(申出がある場合)

まず最初に、軽易業務への転換措置についてみていきましょう。

労働基準法では、使用者は、妊娠中の女性労働者が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない旨、定めています。

この定めは、管理監督者等の労働基準法41条該当者にも適用されます。

ちなみに、この法41条該当者、この後もたびたび出てきますので、ここで簡単に解説しておきます。

労働基準法41条該当者とは・・・

労働条件の決定、その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にある管理監督者

林業を除く農水産業従事者

等を指し、

労働時間・休憩・休日の規定が適用されない労働者

のことを言います。

(他にも、監視など断続的労働従事者で労働基準監督署の許可を受けた者も含まれます)

身近なところで言えば、会社役員以外の部長や所長、工場長や店長といった管理監督者のイメージです。

この軽易業務への転換規定は、労働時間・休憩・休日の規定のどれにも当てはまりませんので、管理監督者等41条該当者にも適用されます。

さて、話を元に戻します。

妊娠中の女性から請求があれば、他の軽易な業務に転換させなければならないわけですが、他に軽易な業務が無い小さな会社はどうすればよいのでしょうか?

この場合は・・・

新たに軽易な業務を創設してまで転換する必要はない

とされています。

ただし、

医師・助産師の指導を背景とした請求である場合には、そのままというわけにはいきません。

この場合には、軽易な業務への転換に代わるものとして・・・

  • 作業量の縮減
  • 労働時間の短縮
  • 休業

等の措置を行い、医師または助産師の指導内容を満たすようにしなければなりません。

この点は、後ほど母性健康管理措置のところで詳しく解説します。

2.危険有害業務の就業制限

次に、危険有害業務の就業制限について見ていきましょう。

労働基準法では、使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(妊産婦)を・・・

  • a.重量物を取り扱う業務 
  • b.有害ガスが発散する場所における業務
  • c.その他妊産婦の妊娠、出産、(子の)哺育等に有害な業務

に就かせてはならないことを定めています。

なお、上記aおよびbの業務については、妊産婦か否かに関わらず、すべての女性労働者に対して禁止されています。

禁止している業務の内容は「女性労働基準規則」に定められていますが、かなり細かく専門的な内容となっているため、ここではaの重量物取扱い以外については説明しません。

男性と女性では、基本的に体の構造が異なります。

こと、妊産婦については、胎児への影響や、産後であっても授乳への影響が考えられ、精神的負担への配慮も欠かせません。

よって、まず、女性労働者、とりわけ妊産婦である労働者の方に対しては、日頃から、良識の範囲でリスクが考えられる業務をさせないよう配慮しましょう。

そのうえで、特殊業務や危険を伴う業務など、させてよいか判断に迷う場合があれば、詳細を必ず確認するようにしましょう。

詳細な内容を確認したい方は、以下の厚生労働省e-Gov法令サイトをご参照下さい。

リンクを貼らせていただきます。

重量物取扱い業務の制限について

さて、上記bの有害ガスについては、あまり主観が入る余地は無さそうですが、aの重量物については、明確な基準を確認しておいたほうがよさそうです。

重量物の基準については・・・

  • 16歳未満の女性は、断続作業12㎏・継続作業8㎏
  • 16歳以上18歳未満の女性は、断続作業25㎏・継続作業15㎏
  • 18歳以上の女性の場合は、断続作業30㎏・継続作業20㎏

となっています。

なお、この制限基準は、すべての女性労働者を対象に定められています。

再確認しておきましょう。

3.時間外労働制限

続いては、妊産婦の時間外労働制限(いわゆる残業制限)について見ていきます。

労働基準法では・・・

妊娠中の女性や産後1年を経過しない女性が請求した場合

1週40時間、1日8時間の範囲内で就労させなければならない

と定めています。

つまり、ここでいう時間外労働とは・・・

個々の会社が定める「所定労働時間」に対する所定時間外労働ではなく・・・

労働基準法で定める「法定労働時間」に対する法定時間外労働

となります。

つまり、妊産婦である労働者から、請求があった場合は、法定労働時間を超える残業をさせてはならないということです。

ただし、妊産婦の方が管理監督者等の労働基準法41条該当者の場合は、労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、この制限の対象外となります。

ここでの法41条該当者の扱いについては、「妊産婦であっても管理監督者等はこの制限を請求できない」というよりは、「そもそも残業を指示される立場にない」と解釈したほうがよいでしょう。

あと、もう一つ確認しておかなければならないことがあります。

それは、変形労働時間制を採用している会社の場合です。

変形労働時間制とは、簡単に言うと、1年、1カ月、1週間のいずれかの単位で、1週あたり平均の労働時間が40時間を超えなければ、1日8時間を超えて労働させても、残業とみなさない制度です。

ここで気をつけておかなければならないのは、この取り決めが労使間で協定されていても、妊産婦から法定時間外労働免除の請求があった場合には、1日8時間を超えて働かせてはならないということです。

4.休日労働・深夜労働制限(申出がある場合)

次は、妊産婦の休日労働・深夜労働制限についてです。

労働基準法では、妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性が請求した場合

休日労働、深夜労働をさせてはならない

ことになっています。

なお、ここで注意しておかなければならないのは、管理監督者等の法41条該当者についてです。

労働基準法41条該当者については・・・

休日労働の規定は適用されませんが、

深夜労働制限の規定は適用されます。

法41条該当者は、労働時間・休憩・休日の規定が適用されないことになっています。

このため、休日労働については制限されません。

対して、深夜労働制限の規定については、法41条該当者であっても制限対象となりますので注意して下さい。

この規定も、労働時間に関することなので、適用されないのではないか?と思われるかもしれませんが、ここで言う労働時間の規定とは、その上限に関するものであり、働く時間帯についての規定は含めないと理解しておくと分かりやすいと思います。

5.産前6週間(多胎14週間)、産後8週間における休業措置(産前産後休業制度)

最後は、産前6週間(多胎14週間)、産後8週間における休業措置についてです。

この措置は、労働基準法に産前産後休業(産休)として規定されているものです。

産前期間の就業制限

産前6週間(双子以上の多胎妊娠の場合は、産前14週間)は、本人から請求がある場合、就業させてはならない

と定められています。

ここでのポイントは、「本人から請求がある場合」について定められている点です。

ところで、出産日当日は、産前・産後のどちらに含まれるかご存じでしょうか?

答えは、産前に含まれる

です。

つまり、本人から請求がなければ、規定上は出産日当日まで働くことも可能ということです。

出産後の就業制限

対して、

出産日の翌日を含め8週間は、原則就業させてはならない

と定められています。

産前期間の就業制限は、本人から請求があった場合に限定されていましたが、出産後の就業制限は、原則的に就業禁止の措置がとられていることがポイントです。

ただし、以下の3点を満たす場合については、復職させてもよいことになっています。

  • 出産した女性本人が就業を希望していること
  • 出産日の翌日を含め、6週間が経過していること
  • 医師より、就業させても差し支えない旨の証明が出された業務に従事すること

これらの規定は管理監督者等の法41条該当者にも適用されますのでご注意下さい。

6.生理休暇(申出がある場合)

妊産婦についての就業制限からは少し外れますが、ここで生理休暇についても触れておきます。

労働基準法では・・・

生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合は、

その者を生理日に就業させてはならない

と規定しています。

この規定は、どのような種類の業務に従事しているかに関係なく適用されます。

また、日数について、何日まで休めるかの規定はありません。


理由は、生理については症状や期間が人や状況により千差万別であり、一概に基準を定めることが困難だからです。

なお、生理休暇は・・・

1日単位でも、半日や、時間単位でも請求があれば許可しなければなりません。

ただし、生理休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が独自に取り決めすることになっています。

欠勤扱いとすることも可能です。

なお、この規定は、管理監督者等の法41条該当者にも適用されます。

母性健康管理措置の内容

さて、ここまでは、労働基準法に定める就業制限措置について解説してきました。

続いては、男女雇用機会均等法に定める母性健康管理措置を中心に解説していきます。


労働基準法に定める母性保護措置は、妊婦である労働者からの請求に応じ、業務負担の軽減を図り、母体および胎児の安全を確保する措置が中心となっています。

対して、男女雇用機会均等法に定める措置は、妊産婦である女性労働者が、医師や助産師による指導を適切に受けられるようにし、また、その指導内容が職場においても確実に守られるようにするための母性健康管理措置が中心となっています。

(母性健康管理措置の対象期間は、妊娠・出産期のみならず、産後1年間も含みます)

また、上記が円滑に実施されるようにするため、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止措置についても定めています。

それでは、母性健康管理措置について・・・

  • 保険指導又は健康診査を受けるための時間を確保するための措置
  • 医師・助産師の指導事項を守ることができるようにするための措置
  • 母性健康管理指導事項連絡カード(母健カード)

の3つ分けて解説していきます。

保健指導又は健康診査を受けるための時間を確保するための措置

医師または助産師による保健指導又は健康診査を受診するためには、働く妊産婦の方本人が、まず必要な時間を確保できなければなりません。

仕事中、検診へ行く時間を確保するのは大変です。

そこで、男女雇用機会均等法では・・・

事業主は妊娠中および産後1年以内の女性労働者(妊産婦)から申し出があった場合・・・

検診へ行くために必要となる時間を確保しなければならない

と規定しています。

この時間は、医師・助産師が指定した診察時間が勤務時間中の場合は、勤務時間の中から確保する必要があります。

また・・・

  • 医療機関等での待ち時間
  • 行き帰りの時間

全て含めて確保しなければなりません。

保険指導又は健康診査を受診するために確保しなければならない回数


少しややこしくなりますが、男女雇用機会均等法では・・・

保健指導又は健康診査を受診するために確保しなければならない回数

についても、以下のとおり細かく規定しています。

その回数は・・・

  • 妊娠23週までは4週間に1回
  • 妊娠24週から35週までは2週間に1回
  • 妊娠36週以後出産までは1週間に1回(医師等から別途指示ある場合はその指示に従う)
  • 出産後1年以内は医師等の指示に従う

と、なっています。

なかなか細かく覚えられませんが、会社担当者の方は、出産が近づくにつれ、その頻度が1週間に1回+αまで増えることを頭に入れて、業務の調整等を考えておきましょう。

また、医師等が指定した診察日を事業主の都合で変更させることは、原則できませんので注意して下さい。

医師等からの指導事項を守ることができるようにするための措置

次に、医師又は助産師からの指導事項を守ることができるようにするための措置について解説します。

妊産婦である労働者の方が、医師又は助産師から指導を受けた場合、使用者は、その指導内容に従うことができるようにするため、必要な措置をとらなければなりません。

具体的な措置の内容は以下のとおりとなります。

  • 妊娠中の通勤緩和措置
  • 妊娠中の休憩に関する措置
  • 妊娠または出産後の症状等に関する措置

では、1つずつ見ていきましょう。

妊娠中の通勤緩和措置

まずは、妊娠中の通勤緩和措置についてです。

  • 通勤ラッシュ時間帯を避けること
  • 混雑の少ない通勤経路や交通手段に変更すること

等により、通勤に伴う体への負担を減らす措置が必要となります。

通勤ラッシュ時間帯を避けるための措置としては・・・

  • 時差出勤を認めること
  • フレックスタイム制度を適用すること

等が考えられます。

妊娠中の休憩に関する措置

次に、妊娠中の休憩に関する措置についてです。

医師または助産師から指導を受けた場合には・・・

  • 休憩回数の増加
  • 休憩時間の延長

等の措置が必要となります。

妊娠中又は出産後の症状に対応する措置

そして3つ目は、妊娠中又は出産後の症状に対応する措置についてです。

医師または助産師から指導を受けた場合には・・・

  • 妊婦本人や胎児への負担が大きい作業内容の見直し
  • 勤務時間の短縮や休業
  • 作業環境の変更

など、状況に応じて業務内容の見直しを行う必要があります。

なお、これらの措置は、労働時間・休憩・休日の規定が適用されない管理監督者等、労働基準法41条該当者にも適用しなければなりません。

理由は言うまでもありませんが、この措置は男女雇用機会均等法に定められているものであり、労働基準法の適用有無とは関係なく、全ての妊産婦である労働者に適用されるためです。

ただし、会社代表者や役員(使用人兼務役員は除く)については、そもそも労働者ではありませんので、妊産婦であっても労働基準法、男女雇用機会均等法ともに適用対象外となります。

母性健康管理指導事項連絡カード(母健カード)

さて、ここで母性健康管理指導事項連絡カード(母健カード)について触れておきたいと思います。

妊産婦である社員の方がいる会社労務担当者の方は、このカードについては、必ず知っておきたいところです。

このカード書式は厚生労働省が定める全国共通のものであり、簡単に言うと・・・

医師または助産師の指導事項と講ずべき措置の指示内容

が、あらかじめ書式の中にリストアップされており、診察後に医師等が選択事項に〇をすることで、診断書の発行を求めずとも、指導事項や職場の事業主が講ずべき措置の内容が明確に伝わるようになっています。

もちろん、医師等が、選択項目以外の指導事項や措置内容を記入する欄も設けられています。

いわば、このカードは、妊産婦である労働者の方本人を介して、かかりつけの医師・助産師と勤務先の事業主や労務担当者および上司をつなぐタスキの役割を果たすものとなっています。

具体的な書式については以下の厚生労働省ホームページをご参照下さい。↓

リンクを貼らせていただきます。

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止措置

それでは最後に、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止措置について見ていきましょう。

男女雇用機会均等法では、妊産婦である女性労働者の方が、同法に定める母性健康管理措置や、労働基準法に定める母性保護措置を受けたこと等を理由に解雇その他不利益取扱いをしてはならない旨を定めています。

なお、不利益取扱いの禁止対象となる理由と、不利益な取扱いと考えられる例については、以下の通り厚生労働省令で定められています。

事業主の方、会社労務担当者の方は、必ず一通り目を通しておきましょう。

(以下、女性にやさしい職場づくりナビより引用させていただきます)

不利益取扱いの禁止対象となる理由

妊娠したこと

出産したこと

妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、又は当該措置を受けたこと

坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと、坑内業務に従事しない旨の申出若しくは就業制限の業務に従事しない旨の申出をしたこと又はこれらの業務に従事しなかったこと

産前休業を請求し、若しくは産前休業をしたこと又は産後の就業制限の規定により就業できず、若しくは産後休業をしたこと

軽易な業務への転換を請求し、又は軽易な業務に転換したこと

事業場において変形労働時間制がとられる場合において1週間又は1日について法定労働時間を超える時間について労働しないことを請求したこと、時間外若しくは休日について労働しないことを請求したこと、深夜業をしないことを請求したこと又はこれらの労働をしなかったこと

育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと

妊娠又は出産に起因する症状※により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと

※「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいいます。

引用元:妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(女性にやさしい職場づくりナビ)

不利益な取扱いと考えられる例

解雇すること

期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと

あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること

退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと

降格させること

就業環境を害すること

不利益な自宅待機を命ずること

減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと

昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

不利益な配置の変更を行うこと

派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

妊娠中・産後1年以内の解雇は、「妊娠・出産・産前産後休業を取得したこと等による解雇でないこと」を事業主が証明しない限り無効となります。

引用元:妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(女性にやさしい職場づくりナビ)

マタニティハラスメントについて

妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止事項については、男女雇用機会均等法に定める母性健康管理措置や、労働基準法に定める母性保護措置が確実に実施されることを目的に定められています。

対して、マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊産婦である女性労働者が、妊娠・出産・育児に関連し、職場の同僚や上司等から嫌がらせなどを受け、就業環境を害されることを言います。

よって、マタハラについては、禁止事項をあらかじめ限定しておくようなものではありません。

事業主や労務担当者のみならず、全社員一丸となってマタハラが起こらない社風づくりを行っていくことが重要です。

まとめ

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ここまで産休制度の概要について一通り解説してきました。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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